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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その37 誤探知
交通リスクコンサルタント 小林 實

早とちり

 外国からの留学生が日本語の難しさとして例を挙げるのは、「時間をおかずに」という言葉だそうです。「時間を」といえば目的語的に聞こえますから、「何で時間というものをおかずにしてご飯を食べるのか」と不思議に思うのだそうです。
 つい最近では、例の「飛翔体の誤探知」のときに注目された「間もなく」という言葉も、考えてみればあいまいさが残ります。たとえば、「2番線に間もなく電車が入ってきます」というときの「間もなく」は、極めて近い将来を表します。したがって、1時間も経って電車がこないようでは、「間もなく」という表現はおかしいといえるでしょう。英語では“soon”という単語が「間もなく」に当たりますが、この“soon”には、「すぐに、間もなく」のほか、「近い将来に」という意味もあります。つまり、北朝鮮当局が発射予告として「間もなく」と表現した際、直近の「間もなく」ではなく、すぐではないが数日中に…というニュアンスだったとしても決しておかしくはないでしょう。ところが、それを受けた日本側が“soon”を「直ちに」に近いニュアンスでとらえてしまった…ということが、今回の間違いの原因の一つだったといえるでしょう。「早とちり」と言われても仕方がないところです。
 ある政治家は、この「早とちり」について、「見逃し三振は許されない」が「空振り三振だから許せる」などと呑気なことを言っていますが、人間のミスが原因であったことは疑いのない事実です。これがもし「空振り」ではなく、迎撃ミサイルの発射ボタンを押してしまったとしたら話は尋常ではなくなります。笑って済ますわけにはいかなくなるでしょう。
 たとえば皆さんも、メールを間違えたあて先に送った経験はありませんか? 一度「送信」ボタンを押してしまったら、もう取り返しがつきません。「メールのあて先間違えて あとは野となれ 山となれ」という心境です。彼女とのデートの約束のメールを、間違えて自分の奥さんに送信してしまうミスは、あり得る話です。「ナニあなた、珍しいこともあるものネ?」で済めばハッピーですが…。
 それはともかく、今か今かと待っているときは、ある種の「過緊張」の心理的状態といえます。それゆえ、レーダーに何らかの航跡が映ったとき、飛翔体が発射された─と勘違いするようなミスを犯してしまったのでしょう。これはある意味、適性検査などで見られる「焦燥反応」と同じです。焦燥性の高い人は、いわゆる「早とちり」といわれ、イライラして早くボタンを押してしまいがちなのです(この性格と今回の誤探知との関係は定かではありませんが…)。

ハリーアップ症候群

 過去の航空機事故のなかで、こうした人間の焦りが原因となった典型的な例は、テネリフェ空港でパンアメリカン(パンナム)機とKLM機が地上で衝突した事故でしょう。テネリフェ空港は、「大西洋の楽園」といわれるスペイン領カナリヤ諸島のテネリフェ島にあります。今から30年以上前の1977年3月、濃い霧が立ち込めた滑走路をKLM機が滑走し始めたとき、前方からパンナム機が走ってきました。KLM機は、正面衝突を避けようと何とか浮揚したものの、胴体部分がパンナム機の2階席に激突。飛行不能に陥り、150メートル先に墜落しました。結果として、両機合わせて583人もの尊い命が一瞬にして失われたのです。
 実は、この事故が起きる前、近くのラス・パルマス空港が封鎖され、多くの飛行機がテネリフェ空港に集中しており、パンナム機とKLM機も一時着陸して封鎖解除を待っていました。やがてラス・パルマス空港の封鎖は解けましたが、こうした際には、できるだけ早く離陸し、再開した空港へ向かいたいという心理が働くものです。まして機長は、待たされてイライラしている乗客のことが頭にあります。それゆえにKLM機の機長は、管制官からの「OK、離陸は待て(スタンバイ・テイクオフ)。後で呼ぶから」という指示を離陸許可と間違えて滑走を始めてしまったのです。その一方で、誘導路にまで駐機の飛行機があふれていたため、管制官はパンナム機に対して、滑走路を逆走してKLM機の後ろに回り込ませ、KLM機の次に離陸させるつもりで指示を出したようですが、霧で視界が悪かったことも災いして、滑走路上で正面衝突という事態を招いてしまったのです。
 この事故を契機に、「テイクオフ(離陸)」という言葉は、管制塔からの離陸許可と復唱以外では使用しないことになりました。航空の世界では、こうした早とちりを「ハリーアップ症候群」と呼ぶそうですが、この事故からは、「早く行動に移したい」という人間の心理が読みとれます。

一呼吸おく習慣をつける

 車の運転でも、信号待ちのときに、信号が青になるのを今か今かと待っているドライバーを見かけます。さて、信号が青になりました。それっとばかり、アクセルを吹かして進行します。次の瞬間、隣に止まっていたトラックの陰から、横断歩道を渡り遅れた自転車や歩行者が目の前を駆け抜けたらどうなるでしょう…。当然、衝突という結果を招くわけで、これは航空機の世界のハリーアップ症候群と同じです。早とちりはいつでも起こり得ることを頭に入れ、一呼吸おく習慣をつけるべきです。

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第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
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コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
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「運転技能」について
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金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
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第80回
荷役事故と交通事故
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高年齢者の再雇用問題と企業リスク
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ハンドルを握る重み
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第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
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交通での安全マネジメント
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コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
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稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
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スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
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目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
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ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
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事業仕分け人
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お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
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第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
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第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
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認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
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エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
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左か右か
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銃社会のジレンマ
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