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最終更新日:2017年11月17日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その31 KYTの落とし穴
交通リスクコンサルタント 小林 實

ベルギーの交通安全教育がヒント

 近ごろ若者のあいだでは「KY(空気が読めない)」という略語が流行しています。政治の世界でもKYなどという言葉が平然と発せられるご時世ですから、「KYT」という言葉を「空気を読むテスト」と理解したとしても不思議ではありません。確かに、空気を読むという意味は、そのおかれた環境の雰囲気を読みとるという意味でもあり、あながち無関係ではなさそうです。ご存じのようにKYTというのは、危険のK、予知のY、トレーニングのTと、それぞれのアルファベットの頭文字をとった略語で、日本語では「危険予知訓練」などと呼んでいます。これを交通事故防止に特化して「交通KY」などと呼ぶこともあります。
 1973年といいますから、今から35年も前に、日本の安全衛生視察団が訪欧しました。当時はまだ労働災害が多発しており、貪欲に先進国に学べというスタンスが一つの流行でもありました。この調査団が、ベルギーのとある工場を訪問したときのこと、たまたまそこに置かれていた交通安全教育用のシートを目にし、これを使えば自主的に危険をとらえて安全行動ができるのではないか…という発想から、このシートを日本に持ち帰りました。これがKYT誕生のきっかけとなったのです。ご存じのように、当初は労働災害防止のために産業現場でいろいろな工夫がなされましたが、KYTのヒントの元がベルギーの交通事故防止にあったことは興味深い感じがします。
 それ以前にも、アメリカからデミングの唱える「QC(品質管理)運動」なるものが日本へ上陸し、「QCサークル活動」、「ZD(無欠点)運動」、さらには鉄鋼団体による「JK(自主管理)運動」などができました。これらはいずれも、職場単位のいわゆる「TBM(ツールボックスミーティング)」、つまり小集団活動を基本としています。また、アメリカのオズボーンが開発した「ブレーンストーミング」という手法は、メンバーの自由な議論を促す手法として注目を浴びました。

危険を常に積極的に意識

 KYTは、職場や作業現場での何気ない風景の写真やイラストを用いて、そこにどんな危険があるかを小集団で討議し、その危険のポイントを割り出し、危険をどう防ぐか─を合意形成するもので、「現状把握」、「本質追求」、「対策樹立」、「行動目標の設定」という流れに沿って同種の事故防止を図ることができます。最近はマンネリ化しがちなKYTですが、ドライブレコーダーの普及により交通事故の正確な映像が入手しやすくなったことを受け、これをKYTの教材に導入できないかと目下いろいろと努力がなされつつあります。ドライブレコーダーの画像データは、動きのある画面であり、しかも巻き戻しができることなどが大きな特長でしょう。
 道路交通のKYTは、ドライバーが自分の周囲に潜在している危険をあらかじめ察知して、それへの正しい対応を図る能力を高めることにその狙いがあります。たとえば、今、前方左側にバスが止まっているとしましょう。バスの側方を通過する際に、その陰から歩行者が横断のためにとび出すかもしれない…と思うと、自然にスピードをゆるめ、「構え」というものができます。一方、この事態を軽く見て、歩行者が出てくることはまずないと判断するか、まったくそんな意識もなく、すっと脇を通り抜けた場合には、「構え」がありませんから、とっさの対応ができず、歩行者と衝突する─といった事故が発生します。こうした見えない危険を、常に積極的に意識させるのが危険予知訓練の骨子です。したがってドライバーは、「常に構える」という気持ちでハンドルを握り、しかも、こうした潜在的な危険を強く意識することが求められているわけです。

マイナス学習による油断

 しかし、KYTというのは万能なツールとはいえません。次から次へと変化する場面に、常に慎重に対応していく習慣づけが必要なわけですが、人間という動物は学習することができるので、毎日のように通り慣れている道路では、このいわばマイナス学習の効果が頭をもたげ、「この10年危ない思いをしたことがない」という油断から、危険の予知機能が退化する傾向があります。事故が起きたときの「まさか、急に車がとび出すとは思わなかった」という典型的な言い訳がその証拠です。事故は、こうした人間のもつ弱点をついて、「待ってました!」とばかり登場するのです。
 その反面、KYTのように皆で話し合って決めたことは、「これは守ろう」と積極的に自分の行動を変えますし、それが持続しやすいのです。人間というものは、上からこうやれと言われると仕方なしにやりがちで、あまり意識のなかに強く残りません。「そんなことはわかっている」といった感じで、のど元すぎれば消えてしまいます。

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第136回
残酒(のこりざけ)運転
第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
飲酒運転とJカーブ
第07回
視覚公害
第06回
イタリアとリスク
第05回
ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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