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最終更新日:2017年10月20日

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交通安全時評

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安全運転管理 あれこれ記 その43 120万という数字
交通リスクコンサルタント 小林 實

実感がわかない…

 数字というものは、「大きい」「小さい」といった感覚レベルでとらえ、数字そのものに感情がこもることはあまりありません。逆に、その数字がきわめて小さい場合には、そこに感情が入ることはよく知られており、たとえば、ナチ・ドイツで大量殺人を指揮したアイヒマンの有名な言葉はそれを思い出させます。すなわち「一人の死は悲劇だが、数百万人の死は統計だ」という冷酷な表現です。これと同じく、わが国の交通事故の死者が5,000人を下回ったと知らされても「ああ、そうなんだ」という程度の受け止め方しかできないものですが、自分の知り合いが交通事故で亡くなった…というようなケースでは、悲しみの感情が前面に出てくるでしょう。WHO(世界保健機関)の発表によると、全世界の年間の交通事故による死者は120万人にも達するそうですが、確かに大きな数字ではあるものの、あまり実感がわかないのではないでしょうか。
 この120万人の交通事故死者のうち65%は、いわゆるBRICs(ブリックス)と称される新興国、すなわちブラジル、ロシア、インドおよび中国、これに加えて米国などによって占められています。なかでも、近年経済力がアップしているインドでは、現在、年間の交通事故死者が9万人にも達しています。インドのタタモーターから国内初の廉価版の四輪自動車「ナノ」が売り出されたことが話題を呼びましたが、これが爆発的に普及し、現在主力になっている中型二輪車に取って代わるようなことがあれば、不足がちな道路施設と相まって、今後、事故死者はさらに急増することが懸念されます。
 同じような事情は、中国にも当てはまります。現在、年間の交通事故死者は約10万人とされていますが、これは必ずしも正確な数字といえないようです。というのも、あの大きな国土を抱え、しかも統計資料というのはある意味、国家機密ともいえるものですから、数字にはかなりの幅があるとみてよいでしょう。現地でのわたしの体感としては、公表された数字より1割程度は多くなる印象です。現在、日本の各メーカーは内陸部へのマーケットの移行を予想しており、今後、重慶あたりでの四輪車の需要が爆発的に伸びると思われます。もちろん、農村部での小型車の需要も増えるでしょう。
 このほか、アフリカをはじめとする開発途上国でも、今後、車の需要が増えることを考えますと、南半球での交通事故も増えると思われます。南半球の人々からは、北半球の人たちが車の利便性をこれまで享受してきたのに、地球環境の保護うんぬんというお題目で我々に車の利用の規制をかけるのか─といった厳しい反発論も出ているくらいですから、今後、車が増えるという趨勢は避けがたいものとなりましょう。こう言っているうちにも、世界の各地で交通事故の悲劇は起きているのです。

24時間以内死者と30日以内死者

 ところで、わが国の交通事故統計では、一般に、交通事故の発生から24時間以内に死亡した者を「交通事故死者」としています。他の自動車先進国では、1週間とか1ヵ月をその基準としているところが多いため、よく国際会議で、日本の交通事故死者が少ないのは24時間制だからではないかと皮肉交じりに言われることもあります。もちろん、わが国の数値を国際比較するときには、交通事故の発生から30日以内に死亡した者(30日以内死者)の数値を使用しています。
 ただ、この30日以内死者の統計をとるのはけっこう面倒なのです。事故に遭った被害者のいる病院と毎日連絡を取り、生存の有無を確認しなくてはならないからです。ちなみに、わが国が24時間統計をとっている根拠の一つは「速報性」であり、一つは「正確性」でありましょう。平成20年の統計を見ますと、24時間以内の死者は全国で5,155人であるのに対し、30日以内死者では868人増えて6,000人を若干上回る数字になり、この比率は1.17倍となります。この比率は近年ほぼ安定した数値を示していますが、868人の内訳を見ますと、70歳以上の高齢者が42.9%にも及んでいます。これは、お年寄りのほうが病院で治療中に命を落とされる確率が高いことと、若い人には即死事案が多いことが関係しています。なお、交通事故による死者の90%以上は、1週間以内の死亡となっています。

小さな事故をつぶすことが大切

 ところで、安全管理に携わる皆さんにとって交通事故の数字というのは、こうした統計の数字と違って、きわめて身近であり、敏感になるものではないかと思います。今日も無事故であってほしいと願っておられるでしょうし、仮に事故が発生したときでも、従業員だけでなく第三者まで巻き添えにしたのではないか…というように、ハラハラドキドキの毎日ではないでしょうか。ただ、一つの企業で大きな事故が発生する確率はそれほど高いわけではなく、むしろ小さな事故の積み重ねが大事故の発生につながる─という点に着目し、これをつぶしていくことが大切なのです。
 起こるな起こるな…と「守りの安全」のモードになりますと、何事も消極的になります。それよりも、事故防止のための工夫を部下と一緒に考え、それを積極的に実践していけば、彼らの信頼感も高まり、おのずと安全に対する全体の感度も上昇するはずです。

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第135回
マナーについて
第134回
沈着な判断と行動が鍵
第133回
血液型と性格
第132回
忖度こそ安全マナー
第131回
タイヤ以外、何に触れても事故である
第130回
現場の声を聞く
第129回
運転の自動化とドライバー
第128回
人類は変化を続けている
第127回
眼の動きを捉える
第126回
プロアクティブな安全管理
第125回
次世代に向けた安全管理
第124回
思い込みの心理
第123回
これからの交通社会は?
第122回
レジリエントな発想
第121回
レジリエンスと安全管理
第120回
トンネルのリスク
第119回
突然死のリスク
第118回
バスの暴走
第117回
オアフ島と交通渋滞
第116回
安全管理八策
第115回
安全の費用対効果
第114回
交差点での安全運転
第113回
自転車事故と保険
第112回
感電のリスク
第111回
「安全神話」は崩壊したか?
第110回
新人教育のヒント
第109回
自動運転を考える
第108回
再び問われるメンタルヘルス
第107回
ハイタクと安全管理
第106回
何を認知するのか?
第105回
交通安全標語の変遷
第104回
なぜゴリラは見落とされるのか
第103回
10年後の交通を読む
第102回
若者との接し方 指導教官の話から
第101回
若者とクルマ離れ
第100回
異常気象と安全運転管理
第99回
どうする物損事故
第98回
ミラーの効用
第97回
「ハザード」の捉え方
第96回
「手術なき医学」からの脱却
第95回
二つの鉄道事故に学ぶ
第94回
歩道橋について考える
第93回
死亡事故の減りにくい部分
第92回
交通違反の悪質性
第91回
見える化
第90回
ハインリッヒの法則の逆読み
第89回
カクテルパーティー効果
第88回
指差し称呼
第87回
コミュニケーション・ミス
第86回
企業とゾンビ族
第85回
ハイブリッド
第84回
「運転技能」について
第83回
金魚のフン
第82回
5回のなぜなぜ
第81回
天井板崩落事故に学ぶ
第80回
荷役事故と交通事故
第79回
安全管理の格付け
第78回
交通KYTの限界
第77回
中小企業と安全管理
第76回
高年齢者の再雇用問題と企業リスク
第75回
「ハザード」の持つ意味
第74回
仮眠と過労
第73回
ハンドルを握る重み
第72回
厳しくなるメンタルヘルス対策
第71回
事故防止のために事業主は何をすべきか
第70回
多発するトレーラー事故〜プロドライバーの資質を問う
第69回
交通での安全マネジメント
第68回
「ゼロ」の持つ意味
第67回
スウェーデンとアルコール
第66回
北欧・コペンハーゲンの自転車道
第65回
無事故が続いていたら...
第64回
社会のスピード
第63回
国際運転免許
第62回
モラルハザード
第61回
コードンラインは不要だったか? ―首都圏での二次災害の可能性―
第60回
稲叢(いなむら)の火 ―防災の伝承を考える―
第59回
スイスチーズの大きな穴
第58回
外国人観光客と冬道事故
第57回
アビイ・ロードの横断歩道
第56回
安全そして安心を目指せ「運転代行業」
第55回
"不死鳥"の帰還
第54回
目先のリスク回避 ―バスの転落事故から―
第53回
ある学者の死を悼む
第52回
氷河急行の事故
第51回
企業も頑張っている!
第50回
うどん文化と運転
第49回
100円ライターのリスク
第48回
カルガモ走行
第47回
事業仕分け人
第46回
お客様目線
第45回
青矢印信号の謎
第44回
「安・近・短」のわな─グアムでの印象
第43回
120万という数字
第42回
加賀屋さんにみるCSR
第41回
「安全力」をアップしよう
第40回
「まぁ、いっか」の発想
第39回
元を質(ただ)す
第38回
ランドマーク
第37回
誤探知
第36回
持続可能性
第35回
認知ギャップ
第34回
「パーおじいさん」のこと
第33回
40年の功と罪
第32回
キャリーバッグと事故
第31回
KYTの落とし穴
第30回
ゲリラ化する災害
第29回
エスキモーと白
第28回
マニュアルにないもの
第27回
あっ、カエルが跳び出すよ!
第26回
経年劣化
第25回
我輩は「ジコ」である
第24回
タイタニック症候群
第23回
感覚の研ぎ澄まし
第22回
若い世代と安全管理
第21回
近づくもの・遠ざかるもの
第20回
自己防衛の殻を破る
第19回
トップの厳しい目
第18回
逆転の発想
第17回
ベトナムとヘルメット
第16回
心のサーモスタット
第15回
地図の効用
第14回
左か右か
第13回
銃社会のジレンマ
第12回
はい作業とは
第11回
ロータリー的発想
第10回
図と地の関係
第09回
安全の文化
第08回
飲酒運転とJカーブ
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視覚公害
第06回
イタリアとリスク
第05回
ボルボが似合った男
第04回
自転車の勘違い
第03回
脳のサボリ装置
第02回
おかしなアナウンス
第01回
転倒リスク

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